今回は経費について学びましょう。改めて確認ですが、税金の算出方法は下記の通りです。
- 収入 - 経費 = 利益
- (利益 ー 控除) × 税率 = 税金
「控除」は特定の条件を満たすことで節税になるというもので、言わば「守りの節税」と言えます。コントロールできるものとできないものがあり、特定の条件を満たすことで、国や地方自治体から控除してもらうという受け身のシステムでした。
控除に対して「経費」は「攻めの節税」と言えます。控除が条件を満たして認めてもらうという受け身だったのに対し、経費は自らの意思で能動的に積み増すことができるためです。
ですが経費を積んで節税するために、支出が増えてしまっては意味がありません。経費にはどのような性質のものがあるかについて、見ていきましょう。
コンテンツ
経費になるものならないもの
まず第一に、「何が経費になるか」「何は経費として認められないか」について、考えていきましょう。
個人に対する経費の考え方
経費については個人事業主と法人で考え方が異なります。
企業というのは営利団体ですので、法人であれば全ての活動が「利益を生むための活動」であると解釈されます。
それに対して個人事業主は「プライベートで利用している」のか「事業として利用している」のかを、常に明確に区別する必要があります。
青色申告特別控除を利用する我々は、詳細な情報を税務署に提出するわけですから、自信を持って「これは事業で使っているので、経費です」と説明できるようにしましょう。
以下では当サイトで推奨している「クアドラントのうち、複数タイプを組み合わせた働き方・稼ぎ方」を実践している方をモデルに説明します。
具体的にはEタイプ・サラリーマンでありながら、Sタイプ・個人事業主とIタイプ・投資家を兼ねており、会社からの給与所得以外に不動産からの事業所得を得つつ、FXで投資しているという方です。
課税方式と損益通算の可否
経費を積む前に、税制についても理解しましょう。経費を積む場所を間違えると、思ったように還付されない場合があります。
総合課税と分離課税
「総合課税」とは、その名の通りトータルの所得に対して課税することです。給与所得・事業所得・不動産所得・雑所得などは全て合算され、最大45%の累進課税というシステムに晒されます。これに対して「分離課税」とは個別に課税することです。
整理すると下記になります。
収入・支出の種類 | 所得タイプ | 課税タイプ | 所得タイプ内での損益通算 | 総合課税での損益通算 |
サラリーマンとしての給料 | 給与所得 | 総合課税 | 可 | 可 |
不動産での損益 | 事業所得 不動産所得 |
総合課税 | 可 | 可 |
海外FXでの損益 | 雑所得 | 総合課税 | 可 | 不可 |
国内FXでの損益 | 雑所得 | 分離課税 | 可 | 総合課税でない |
損益通算
損益通算とは、所得タイプ内または総合課税内での損益を通算することです。
①損益通算・所得タイプ内
例えば国内FX業者を複数利用していて、A社で100万円利益が出た・B社で50万円の損失が出た・別途10万円の経費が掛かったとします。
すると100万円 ー 50万円 ー 10万円 = 40万円が課税所得となります。これが「所得タイプ内での損益通算」になり、どの所得タイプでも実施可能です。
国内FXでの損益は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税となりますので、税率は20.315%です。これはサラリーマンとしての給料や不動産家賃などとは別に、個別に課税される分離課税です。
②損益通算・総合課税内
次に年収1,000万円のサラリーマンが、投資用不動産を年末に持ち始めた場合を考えます。
家賃収入は2か月分の87万円しか入っていませんが、初年度は不動産取得税などの初期費用が500万円掛かったとします。すると不動産の損益としては87万円 ー 500万円= 413万円の損失です。
ですが事業所得・不動産所得は総合課税で、同じ総合課税である給与所得との損益通算が可能です。
従って1,000万円 ー 413万円 = 587万円となり、年収1,000万円のサラリーマンとして払っていた税金が、年収587万円相当に減りますので差額の納め過ぎた税金が還って来ます。これが税金の還付で、大きな節税です。
青色申告をすることで赤字は3年に渡って繰り越すことができますので、もちろんサラリーマンという立場がなくても初期費用500万円の経費で作った赤字が無駄になることはありません。
ですがサラリーマンと兼業していると1年目から税金の還付が受けられますので、それを投資に回すなどの選択肢が生まれます。
ただ1点、注意点があります。
それは「総合課税であれば、なんでも損益通算できるわけではない」ということです。総合課税の中でも雑所得は損益通算の対象になりません。
従って海外FXで大きな損をしたからといって、給与所得と相殺して税金が還ってくるわけではないので、注意しましょう。もちろん同じ海外FXの他業者同士であれば、所得タイプ内での損益通算なので可能です。
ココがポイント
雑所得を除く総合課税は、同年に総合課税同士で損益通算が可能。
以上を理解した上で、具体的にどのような費用が経費として認められるかを見ていきましょう。
支出を伴う経費・FX編
FX取引での損益は雑所得となり、他所得タイプとの損益通算はできません。ですがFX取引そのものに必要になった経費については、利益から差し引くことができます
書籍代・セミナー代
FX関連の中で一番分かりやすく積めるのが書籍代やセミナー代です。
本屋でFX関連の書籍や雑誌を購入した場合は、忘れずに領収書をもらうようにしましょう。またFXを教わるセミナーや、FX情報を交換するオフ会に参加した場合も、セミナー代を経費にすることができます。
セミナーに出席するための交通費や、宿泊を伴う場合の宿泊費も経費になります。
パソコン代
FXは情報量が命ということで、複数のモニターをパソコンに繋いで利用する人も多いと思います。この場合のパソコン代・モニター台・机や椅子代も経費にすることが可能です。
少額減価償却資産の特例
パソコンなど高額な経費を作るときに覚えておきたいのが「少額減価償却資産の特例」です。
青色申告を行う個人事業主であれば、本来であれば10万円以上の少額固定資産は複数年かけて減価償却する必要があります。ですがこの特例を使うことで30万円未満のパソコンであれば、全額一括で1年間で減価償却することが可能です。
この特例は期限付きでしたが、2020年8月現在では2022年3月末まで延長されています。今後も延長が期待されますが、要件の見直しが行われる可能性はありますので、最新情報をチェックして利用しましょう。
レンタルサーバー代・EA代
FX取引を行う方法はいくつか種類があります。MT4(MetaTrader4)を自宅PCで走らせて裁量トレードを行う人もいれば、レンタルサーバーを借りてMT4を実行し、EA(Expert Advisor)を走らせておくこともできます。この際に必要となるレンタルサーバー代や、EA購入費用ももちろん経費になります。
以上がFX取引を行う上で、経費として認められるものです。不動産のように大きな経費を作ることは難しく、少額なものを積み重ねていくイメージになります。
ココがポイント
FX取引で支出を伴う大きな経費を作るのは難しい。
何が経費になるかを理解して、細かく積み重ねましょう。
経費を作るために、無駄な支出が増えては本末転倒です。改めて留意しましょう。
支出を伴わない経費・FX編
改めて支出をするわけではないという意味で、「支出を伴う経費」と「支出を伴わない経費」に分けて説明します。
取引手数料
こちらのページで詳しく説明しましたが、FX取引時に発生する取引手数料は経費にすることができます。特に海外FX業者で口座を開設する場合は、取引手数料無料のスタンダード口座ではなくゼロ口座・ナノ口座・ブレード口座などと呼ばれる取引手数料が有料の口座を選びましょう。
スプレッドが狭く、利益から取引手数料を経費として差し引くことができますので、結果的に有利に働きます。少しずつですが日頃の取引で経費を積み増すことができるので、おススメです。
ココがポイント
海外FX業者の取引手数料有料口座は、スプレッドが狭く大きく経費を作れるので効率的。
支出を伴う経費・不動産編
不動産の損益は事業所得・不動産所得となりますので、損益通算により給与所得で払い過ぎた税金を還付してもらうことが可能です。
実際の支出を伴う経費については、こちらのページにまとめています。
支出を伴わない経費・不動産編
不動産投資の面白いところは、改めて何かを購入したわけでもないのに、支出を伴わない経費を大きく積むことができる点です。
減価償却費
安定して大きく経費を作ることができるのが、建物の減価償却費です。特に木造のアパートであれば法定耐用年数が22年と短いので、大きな経費を22年間に渡って積むことができます。
ローン利息
不動産を取得した際の借入金のうち、元金については経費になりませんが利息は経費になります。減価償却費と並んで高額な経費を作り出せますし、仮に35年でローンを組んでいるのであれば減価償却が22年で終わった後の13年間も高額な経費を作り続けてくれる、頼もしい存在です。
忘れずに経費に積みましょう。
事務所費用の家事按分
当サイトでは、不動産は5棟10室規模の事業規模にして、不動産所得ではなく個人事業主として事業所得にすることをおススメしています。青色申告特別控除の最大65万円も目的の1つですが、もう1つの目的は事務所費用の計上です。不動産貸付を業務的規模でなく事業的規模にすることで、様々な経費が認められやすくなります。
自宅を自宅兼事務所として使用する場合、家賃・光熱費・通信費を家事按分して、経費として積むことが可能になります。
未来に先送りする経費
以下はまだ自分自身は使ったことがないシステムですが、知識として知っている限りを紹介します。上記節税策を駆使してもどうしても利益が出てしまい、そしてどうしても納税したくない場合は利用を検討してみてください。
経営セーフティ共済
「経営セーフティ共済」は中小企業のために作られた共済制度です。
経営セーフティ共済
不測の事態に備えて毎月少しずつ掛金を支払っておき、運転資金が不足した場合は共済から低金利で借り入れることができるシステムです。
不測の事態が起こらなかった場合は、全額を解約手当金として返してもらうことができます。掛金は月額5,000円~20万円までで設定でき、途中で額面を増減することも可能です。
中小企業向けの制度ですが個人事業主でも利用できること、掛け金は全額経費にできること、1年間分の掛け金をまとめ払いできる点がポイントです。
つまり年末くらいに「どうしても今年は利益が出てしまうが、どうしても納税したくない」となったら、最高の月額掛金20万円に設定して12か月分をまとめ払いすれば20万円 × 12か月 = 240万円の経費を作り出すことができます。
この積立金は40カ月以上加入していれば全額が解約手当金として戻って来ますので、損することはありません。
ですが注意点が2点あります。
①早期解約による返還率悪化
1つ目は加入が40カ月未満の場合、解約手当金の返還率が悪くなるということです。
12か月未満だと払い戻しなし(掛け捨て)、24カ月未満だと80%、30カ月未満だと85%、36カ月未満だと90%、40カ月未満だと95%のように上がっていき、40カ月以上で100%になります。
経費を作るつもりで掛金を損してしまっては、本末転倒なので加入期間に注意して計画的に利用しましょう。
②利益の先送りに過ぎない
2つ目の注意点は、解約時には利益として返ってくるということです。
その時に事業が上手く行っていたら、さらに利益を積み増すことになりますので、税率が高くなってしまうと目も当てられません。
以上の観点から今の利益を40か月後に先送りして、その間に節税策を考えるという「時間稼ぎ」として使うのが良いでしょう。
繰り越しと繰り戻し
以上は利益が発生した年と同じ年内に注目し、経費を発生させて節税するという手法の説明です。
毎年青色申告をしていれば、年をまたいでやりくりが可能になります。ある年に大きな経費を発生させて赤字にして翌年以降に繰り越したり、あるいは前年に発生した黒字を今年の赤字を繰り戻して相殺することが可能となります。
それぞれ期間と対象が異なるので、注意しましょう。
繰り越し | 繰り戻し | |
期間 | 3年間 | 1年間 |
所得税 | 対象 | 対象 |
住民税・復興特別所得税 | 対象 | 対象でない |
赤字の繰り越し
ある年に赤字が出て納税を行わず、翌年に黒字になり前年の赤字分と相殺して納税額を低くするというのが赤字の「繰り越し」です。この繰り越しは赤字が発生した翌年以降3年間認められます。
特に投資用不動産を購入した初年度は、不動産取得税などの初期費用により大きな経費発生が見込めますので活用できる可能性があります。ただこの繰り越しの前に、先に同年で損益通算を行う必要がありますので、給与所得と相殺してしまい翌年に赤字を持ち越せないケースも多々あります。
ココがポイント
不動産所得で赤字を作っても、給与所得と損益通算され税金還付される。
翌年まで繰り越さず、同年で処理されるケースが多い。
赤字の繰り戻し
日常ではあまりなじみがない表現ですが、繰り越しの逆を「繰り戻し」と言います。
ある年に黒字が出て納税を行い翌年に赤字になった場合、前年の黒字分と相殺して前年の納税額を還付してもらうのが赤字の「繰り戻し」です。
この繰り戻しは黒字の発生した翌年に赤字が発生した場合のみ認められます。また繰り戻しは所得税のみに提供され、住民税や復興特別所得税は対象にならず還ってこないので注意しましょう。
まとめ
以上が経費の積み方です。特に支出を伴わない経費については「知識がそのまま経費になる」ことで、節税に繋がるので活用しましょう。支出を伴う経費については、無理に経費を作ろうとして無駄な支出が増えては本末転倒ですので注意してください。
そしてFXにしろ不動産投資にしろ、やはり「お金の仕組み」を確立すると利益が出てしまい控除や経費では相殺できなくなります。
経費を作るのも限界がありますので、対策が間に合わないくらい儲かったら大人しく納税しましょう😎
-
サラリーマン時代とは違う!帳簿の付け方と経費の証明
続きを見る